「蜘蛛女のキス」感想

2017.6.3 13:30~ 蜘蛛女のキス 東京グローブ座

 

 

 

原作読んで映画も観て、舞台は1回きりだったのでまざってたりあやふやだったりするところもあるかもしれませんが、とても素敵な舞台だったので思い出しながらちょっぴり感想。幸せな夢の続きを見るようなハッピーエンドだったなぁ。

 

男同士のあれこれがあることは公式サイトのあらすじや観劇前から軽く読んでいた原作で知っていたわけですが、あまりうがった目線で見たくないなと思っていたのでそこは意識しないようにしていました。でも、そんなことを気にする必要がないくらい、そんなことはどうでもよくなるくらい、愛おしくてせつない素敵なラブストーリーだった。夢のようなラブストーリーだった。

 

原作はバレンティンモリーナの会話のみで構成されているので、ふたりがどんな表情で会話していてどんな感情を抱いているのか、この沈黙にどんな意味が込められているのか、そういった解釈がすべて読者にゆだねられる。わたしはあまり本を読むほうではないのでそもそもの読解力が足りないこともあって、ふたりの会話を文字で追いながら、それが真剣なシーンなのかはたまた冗談を言っているのか、そんなことすらもわからない場面がいくつもあった。それもあって、舞台を観たとき、そんな原作に演技や演出による色がついたことへの衝撃がすごかった。思っていた以上に冗談めかしていて思わず笑ってしまうようなシーンも多かった。場面が転換するたびに物語の緩急に引き込まれていった。

 

「あんた」だったお互いの呼び方が「君」になり、「あなた」になり、名前を呼び合うことも増えて・・・ふたりの距離が縮まっていく様子が本当に愛おしかった。バレンティンモリーナへ心を許して甘い顔をしたり隙を見せたりすることで、モリーナがバレンティンへの愛情や慈しみを抑えきれなくなって、抱えた秘密に葛藤したり画策したり・・・ともすれば自分の身を滅ぼす危険がある中で、モリーナによるバレンティンへの施しは、母が子に与える愛に近いものがあった。原作にある「だって、ほら、ママの愛情って、生まれてこの方あたしがいいと思った、たったひとつのものだから」というモリーナの言葉を噛み締めながら、そんなふうに思った。

 

ラストシーン、扉が開いた瞬間の真っ白な光はさながら天国のようで、これから牢獄を出てバレンティンの望みを叶えるモリーナにはつらいだけじゃなくてきっと明るい未来が待ってるんだなぁと感じられて、あぁ、これはハッピーエンドだなぁと思った。つらいことの方が多かったモリーナの人生に愛と幸せを与えたバレンティンは、モリーナにとっては神様みたいな存在だったんじゃないかなぁ。だからこそ、これまでの人生に母からの愛情以上のものがなかったモリーナにとって、これ以上バレンティンと心を通わせて結ばれることは、望みようのない夢だったのかもしれない。

 

その後バレンティンは拷問を受けて、朦朧とする意識の中で最愛の人、マルタの夢を見る。からだを繋げても、くちびるを合わせても、バレンティンモリーナは恋人同士になったわけじゃない。男を糸で絡め取る「蜘蛛女」のキスは、愛した男の心までは縛れなかった。

 

それでもそう遠くない未来、暗い牢獄から明るい天国に場所を変えて、ふたりが再会するといい。思い出話に花を咲かせて、そんな話は置いといてと、新しい映画の話を続けられたらいい。本当に夢のような話だけど、そうあってほしいと思う。同じ夢が見られなくても、天国は同じであってほしい。*1三浦しをんさんの言葉を借りるなら、そんな未来が訪れるはずないなんて、誰にも言えやしない。だからこそあの扉の向こうの光の先に幸せなふたりがいることを、わたしは願ってやまない。

 

 


以上!健気で明るいモリーナがかわいくてしかたなかったわたしはどうしてもモリーナの幸せを願ってしまうのです・・・バレンティンほんと罪な男!でもかわいい!ふたりともかわいい!かわいくてかわいくてたまらんかった!!!蜘蛛女のキスの上演に関わったすべてのみなさま、お疲れさまでした。素敵な舞台をありがとうございました!!!!!

*1:原作の文庫本にある三浦しをんさんによる解説より。